未利用フルーツをみずみずしく焼き上げて「フルーティピッツァ」に。フードロスを甘いピッツァで解決するまで。

未利用フルーツをみずみずしく焼き上げて「フルーティピッツァ」に。フードロスを甘いピッツァで解決するまで。

このほど八芳園は、「包括的連携協定」を締結している山梨市と共に、未利用の果実を使った「フルーティピッツァ」を開発しました。第1弾の桃、第2弾のピオーネ&シャインマスカットに続き、2022年の春から初夏にかけて苺を主役にした一枚が登場しました。

山梨市は土壌の水はけが良く、果物の味と香りが濃い

土屋農園の桃

葡萄、桃、すももの生産量で日本一を誇るなど「フルーツ王国」として知られる山梨県。中でも甲府盆地内の扇状地(河川によって山から運ばれた土や砂が扇状に堆積した地形)は土壌の水はけが良く、果実が水分を吸収し過ぎず味と香りを濃く保つため果物の栽培に適しているといわれています。

この甲府盆地の東部に位置する山梨市でも、やはり白桃やシャインマスカット、佐藤錦(さくらんぼ)、章姫(苺)などの生産が盛ん。八芳園は、東京2020大会のホストタウン活動を機に同市と交流を始めていて、現在は互いの長所を生かして地域活性化を目指す「包括的連携協定」を締結しました。

落ちた実は捨てるのが当たり前……でも、大切な宝物に見えた八芳園

未利用フルーツの画像

そんな中、山梨市を訪ねた八芳園が、ある果樹園の片隅で山積みにされている桃を発見。木から落ちて一部のみが変形した実など、まだおいしく食べられるにもかかわらず、そのまま廃棄されていることに大きな衝撃を受けました。

しかも現地では、果実の色付きを促すべく太陽光の反射シートを地面に敷いています。つまり、雨や風で落下した実が土に直接触れることは少なく、傷や汚れが付きにくいため果肉の質が保たれるのです。

しかし、桃はシーズンを迎えると一気に収穫が始まり、生産者たちは出荷作業に追われます。落ちた実が食べられると分かっていても高齢化や人手不足で手が回らず、ヒアリングしたところ「もったいないけれど活用法を考える余裕が無い」というのが本音でした。

さらに、実がしっかりしていて、まるでボールのような大きな桃の実は、地面に落ちたままにしておくと乗り上げて足首を捻挫してしまうこともあるそうです。

特に収穫のピーク時は、拾う時間も惜しいほど忙しく、昔から「廃棄して当たり前」という風潮と相まって、フードロスが長く続いてきたのです。

ジャムもコンポートも面白くない。答えは「フルーティピッツァ」

この課題を解決しようと、山梨市と八芳園はさっそく協議を開始。「ジャムやコンポートにしてはどうか?」「それでは話題性に欠ける」などと意見交換する中、「ピッツァが面白いのでは?」と声が上がります。

ちょうど同じ頃、八芳園は北海道の江別市を訪問。生産量日本一を誇る地元の小麦と、同じく江別産レンガの窯や薪でピッツァを焼く人気ピッツェリアを訪ねていて「この店の生地に山梨市の果物を合わせたら最高の一枚ができるはず」と思いつきます。

ピッツェリアにアプローチすると「とても良い取り組みですね」と快諾。こうして“捨てていた当たり前”を変える「山梨市フルーティピッツァプロジェクト」が立ち上がり、レシピ考案や試作が本格的に始動します。

難しかったのは、にじみ出てくる果汁のコントロール

フルーティピッツァ 桃の画像

フルーティピッツァの開発において最も試行錯誤したのは、桃に含まれる水分のコントロール。加熱によってにじみ出る果汁が生地をふやかしてしまい、軽やかな生地の食感を奪ってしまいます。逆にセミドライやドライに加工した果肉は、桃自体が乾いてしまい、食感が物足りません。

そこで八芳園では、ペストリー部門が工夫を凝らし、ピッツァに使用する桃としてベストな状態に加工し、ピッツェリアに発送。真空パックで鮮度を保ちつつ、果肉の変色という課題もクリアしました。

また、桃に続く第2弾のピオーネ&シャインマスカットのレシピ開発においても、半分に切った実の皮目を何度も上下反転させるなど細かいテストを重ね“究極の一枚”を求めていきました。

薪窯だから短時間加熱で果物が鮮度を保つ、生地が香ばしく匂う

エベッツァの薪窯画像

一方、江別市のピッツェリアは生地づくりと“焼き”を担当。地場産の小麦を使った生地は薄くて軽く、店舗には幅広い世代のお客さまが訪れ、大きな一枚を丸ごと召し上がる姿が印象的です。

レンガ窯は火の通りが均一で早く、薪の香りを生地に浸透させながら、桃の鮮度を閉じ込めていきます。そして、焼き上がった後はすぐに冷凍して真空パックし、再び八芳園に発送、商品として店頭に並びます。

ピッツァの香ばしさに食感の良いフルーツも味わえる一品

フルーティピッツァ シャインマスカット&ピオーネ

フルーティピッツァ第1弾の桃は、まるでリンゴのようにシャリっとした歯触りが特徴。第2弾のピオーネ&シャインマスカットは、かむと皮がパチンと弾け、果汁が口いっぱいにあふれ出てきます。

実際に購入するお客さまの多くが、味と食感を絶賛しつつ、廃棄されていた果物が生まれ変わるストーリーに共感してくださいます。山梨市の生産者にも試食してもらったところ、加熱後も果物の素材感がしっかり残っていることに大変驚かれていました。

第3弾は苺。完熟手前で間引かれた、酸味も甘みも豊富な粒たち

フルーティピッツァ 苺

そして2022年春からは、フルーティピッツァ第3弾として苺が登場。生産者の「アグベル」は20代や30代を中心としたグループで、次世代の農業に取り組んでいます。

雨量や日照量に合わせて与える水分量を調整するなど、苺はデジタル化された水耕栽培のビニールハウス内で生育。スタッフが和気あいあいと作業する中、ミツバチが忙しそうに飛んでいるような農園です。

ここでも多くの苺が実を結ぶものの、一部はせっかく色付いたのに間引かれ、ジャムなどの加工品に利用する以外は廃棄されてしまうものもありました。フルーティピッツァに用いる粒も完熟手前の状態ですが、甘みも酸味も納得のレベルです。

今回はトマトソースとベーコンを合わせ、チーズがとろり

苺のフルーティピッツァは、八芳園内でフード開発などを手がける「セントラルキッチン」がレシピづくりを担当。第1弾、第2弾と続いたスイーツ路線から方向性を変えることにしました。

着目したのは、苺の風味がフルーツトマトに近いこと。そこで今回はトマトソース、ベーコン、チーズと合わせてアレンジしたところ、全員が「これが一番おいしい!」と太鼓判を押しました。

スパイス控えめのトマトソースはシンプルな味わいで、モッツァレラに似た白チーズは焼くととろけて伸び、口に入れると苺の香りが追いかけるように鼻を抜けていきます。

おいしく食べる秘訣はフライパンで約5分。水分を逃がさずふんわり

自宅で食べる際はパッケージに書かれた通りにオーブンやトースターを使っても構いませんが、お勧めはフライパンです。まず、生地が柔らかくなる程度にピッツァを自然解凍し、油を引かず中火で5〜6分、ふたをして蒸し焼きにします。

必要以上に水分を逃がさないため、生地がカリッとしつつも表面の苺やチーズはふんわり、とろり。一般の冷凍ピッツァにも通用するテクニックなので、どうぞお試しください。

なお、せっかく山梨の食材をいただくので苺のフルーティピッツァをワインと合わせてはいかがでしょうか。他にも、山梨はクラフトビールも豊富で、すっきりとした苦みや炭酸の刺激ともよくマッチします。

目標はコミュニティづくりと「山梨といえばフルーティピッツァ」

キッチンカー「街の駅やまなし」前

※キッチンカーでのフルーティピッツァ販売など活動を広げています。

本プロジェクトを通じて八芳園では、今後も廃棄される果物にスポットを当ててフードロスを解消していくとともに、いずれは生産者とのコミュニティを構築したいと考えています。

なぜなら、年配の農家は例えばシャインマスカットを漬物にするなど、彼らしか知らない果物の知識を持っています。一方で若手の生産者は、こうした情報に関心があり、外に発信する力を持っています。この両者が手を組み、八芳園がサポートすることで、面白い展開が期待できると考えるからです。そのためにも、まずはプロジェクトを盛り上げ「山梨といえばフルーティピッツァ」といわれることを目指します。

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苺のフルーティピッツァは、東京港区白金台にある八芳園のポップアップイベントスペース「MuSuBu」でも3月から販売開始。